『タルーラ 彼女たちの事情』
Tallulah
2015・米 シアン・ヘダー
IMDb | 6.7/10 |
Rotten Tomatoes |
85/100 |
映画.com | 3.3/5 |
Yahoo!映画 | 5/5 |
Filmarks | 3.6/5 |
coco | 100/100 |
可
あらすじ:子供を誘拐して、元カレの子だと嘘をついた。
Netflixはドラマばっかりと思っていたら映画も作ったのかと興味をひかれ、ロッテントマトの高評価に押されて見てみました。
ザックリと感想を
赤ん坊の誘拐犯が主人公のため感情移入が難しい話です。本当の母親がネグレクト気味だったりと致し方ない部分はあるものの、誘拐し、ウソをつく。そして普段の素行が悪い。
ある程度の状況設定や、生い立ちの不憫さなどが匂わされているが、そこまで誘拐の必然性を感じないため、最後まで主人公を理解することはできませんでした。
むしろ主人公に共感するのではなく、彼女がかき回していったおかげで、周辺の人物に訪れる変化の方に注目すべきなのかも。
反省も成長もしない主人公。
主人公は、ひたすら周りに迷惑をかけ続ける。そして誘拐、窃盗など犯罪行為を含むので観客の不快感を煽っていく。その後、反省する様子があれば別だけど、それも描かれない。
人の歯ブラシ勝手に使う時点でアウトだ。しかもその不快感をわかろうとはしない。歯ブラシを買って返すでもない。
彼女に共感できるかできないかで作品の評価が決まるのでは無いだろうか。
トマトメーター80%超えなので、たぶん共感できる人のほうが多い、ハズ。
周辺の人物の方が魅力的
主人公と暮らすことになる元カレの母親は、作家で、家族形成に関する本も書いているのに離婚を目の前にしている。
誘拐されてしまう若い母親は、子育ての心労からネグレクト気味でヤケになっている。
どちらも、精神的に追い込まれていて同情の余地があるように描かれている。
まとめると
不快な主人公を含め、役者陣は素晴らしい演技を披露していた。
しかし、物語の主軸である主人公が、反省も成長も感じられず、周りの人間がなんだか結果オーライみたいなリアクションをしているので、落とし所がわからない。
いい話にも、嫌な話にも振りきれないので、後味がぼんやりとしてしまっている。
↓ネタバレ感想↓
主人公のタルーラ、通称ルーは、エレン・ペイジ。なんだか『ジュノ』を想起させる配役。
ルーは彼氏と一緒にホーボーのような生活をしている。
オンボロのバンに乗って、ゆく先々で、車中泊をし、盗みや残飯あさりで食いつないでいた。
彼氏の方は、車暮らしにうんざりし始めていた。愛し合ってはいるものの、二人の人生設計はかなり違うことがわかる。
ここで妙な描写が挟まれる。
世界から、いきなり重力が失われ、ルーの体が空中に浮き始める。必死に車にしがみつきなんとか地球にとどまろうとする。
前情報ナシに見始めたので、もしかしたらSFとかファンタジーの要素があるかと誤解し始めた。
あとあと、よく見る夢だとわかるが、その説明はかなり後になって出てくるのでキャトルミューティレーションされたかと思った。
目が覚めると彼氏の姿はない。
彼のことを諦めきれないルーは、彼氏の母の住むニューヨークを尋ねに行く。
ルーは、ニューヨークでも残飯あさりをしている。
ホテルに忍び込んで、廊下に出されたルームサービスの残りを食べ漁っていると部屋の中に招き入れられた。
中には若い女性がいて、ルーを客室係と勘違いしているようだ。1歳の娘の子守をして欲しいと頼まれる。
部屋の中に金目のものがあると見たルーはそれを承知し、夜まで部屋に居座る。
この時、ルーを客室係だと勘違いするのにかなりの無理がある。どう見てもボロ着をきた若い女だし、同じ場面に、制服をきた客室係も登場するため余計に無理がある。
お話を進めるためだけの展開になってしまっている。
母親の役のタミー・ブランチャードの演技は素晴らしい。
若い女のままでいたいと思っているものの、子供を産んでから、夫からも周囲からも母親でいることを強いられ神経をすり減らせていることがしっかりと伝わっていくる。
子供がベランダに出ようとしている時に「落ちたらホテルを訴えればいい」と冗談を言うのは、いっそそうなれば楽に慣れると、かなり追い詰められていることがわかる。
夜になり、母親は帰ってくるが、娘に関心は無い。そのまま寝てしまう。
泣き続ける娘を放っておけなかったルーは、外に連れ出し朝まで一緒に過ごす。
朝になると、母親は娘が居ないことにパニックを起こし、すぐに警察に通報。ロビーには警官が大勢詰めかける事態に。
ちょうどそのころルーが戻ってくるが、警官達を見て、逮捕されると思い。娘を連れ去ってしまった。
ここでも話をすすめるためだけの展開。
警官を見ただけで自分のせいだと判断できる割に、そこに娘を置いていくとかいった発想は浮かばず連れ帰ってしまうのは頭が悪い。
ルーは、元カレの母親の家に行き、彼の子だと嘘をつく。
三人での生活が始まる。
この場面での目的も明瞭さにかける。混乱の中での選択だとは思うけど、常からの倫理観のなさが影響しているようで不快感を抱く。
また本筋とは関係ない細かな描写でも、主人公であるルーと観客の溝をどんどんと深めていく。
家主の歯ブラシを勝手に使ったり、目の前の路上でレモネードを売り始める。ベビー用品店に行き、他の客が持ってきたベビーカーを置引きする。
子供のことは気にかかるものの、ルーのことはもうこの時点でどうでも良くなってしまった。
元カレの母親マーゴを演じるのは、ドラマ『ザ・ホワイトハウス』でお馴染みアリソン・ジャニー。
マーゴも女性としての生き方で転機を迎えている。
作家として、家族形成や結婚についての本を書いている。にもかかわらず。夫はゲイを告白し、新しい恋人の元へ、離婚の申請をしている最中だ。
マーゴと、赤ん坊の母親、彼女達がルーと関わって影響を受けるのが本作のテーマではあるものの、ルーが自分勝手に行動すると、なぜか周囲にいい結果をもたらすような都合のいい展開ばかりに感じる。
その後、破天荒なルーに影響されたのか、マーゴも、離婚問題をフッ切ったり、一緒に子供を育てて擬似家族として距離を埋めたりとハートウォーミングなシーンがつづく。
しかし、ルーが嘘を付いていることがわかっているので感動していいものなのか腑に落ちない。
その後、警察から手配写真が出まわり、結局逮捕される。
娘を引き渡すとき、どうやら本当の母親も改心したらしく、娘の将来には希望が持てる着地にはなっていた。
ラストシーンは印象深くて好きだ。
中盤にルーが語っていたこと。もし重力がなかったら、どこか遠くに飛ばされてしまう。(序盤の不可解な無重力シーンはこのイメージを表していた)
それでもルーは何かにしがみついて地球に留まりたいと言っていた。彼女自身の生い立ちについては詳しく語られないが、彼女としては、どんな状況になってもこの場所で生きていきたいという意思表示をしていたのだと思う。
一方、マーゴは重力がなければどこまでも飛んでいってしまいたいと言っていた。
エンディングでは、時間がたち、ルーが戻ってくるのを待っているマーゴの様子が映される。ふと重力がなくなる様子をイメージしていみるマーゴ。
以前の答えとは裏腹に、宙に浮きながら、木の枝を掴むマーゴ。
彼女には、ここにとどまる理由が見つかった。
このエンディングだと、たぶんいい話にしたいとは思う。
でも、正直ルーのことはどうでもいい。