『ザ・ギフト』善意を受け取るか、悪意を疑うか。
『ザ・ギフト』
The Giftあらすじ:再会した知り合いが、思いのほかグイグイくる。
ザックリと感想を
サスペンス・スリラーとして十二分に面白いです。その上、ドラマ性テーマ性が興味深いので多面的に楽しめる傑作。
フツーの人が一番怖いというスリラーのさらに一段掘り下げたような作劇が見事としか言いようがない。
少し心理的にエグい部分はあるものの、グロは全く無いので、万人の大人におすすめしたい作品です。いろいろと含みのある題材ですが、お話自体は驚くほどシンプルなので、前情報なしに見て十分楽しめます。
登場人物の実在感。
ミステリー映画で驚きの展開があるとき、脚本家に騙されることは間々ある。
しかし本作は、そのような小手先のテクニックではなく、人物の描きこみを丁寧にすることによって、劇中の人物が観客を翻弄してくる。
それは、ただのサプライズではなく、人物たちの行動に説得力があってこそ完成する驚愕を与えてくれる。
それを実現するキャストは全員素晴らしい。特に、ジェイソン・ベイトマンはアカデミー賞が取れるくらいの名演だった。
すぐれたジャンル映画でありながら、重厚なドラマとしての噛みごたえも十分。
世界一美しい撮影。
本作の撮影監督は、『シングルマン』でその年に世界一美しい映画と評されたエドゥアルド・グラウ。
本作でも、自然ながらも、効果的な構図やカメラワークが随所にある。
何気ないシーンなのに、何か圧迫感があったり、目線が移動する先に嫌な予感がしたりと、一秒たりとも目が離せない。
ガラス張りの我が家。
ロケーションが素晴らしい。
主人公夫婦の住む家は、小高い丘の斜面にあり、広々とした一階建て、建物の四方がガラス張りになっている洒落たデザイン。それがひとたびスリラーの舞台となると、外に何かが待ち構えているような不穏さを漂わせ、またドラマの舞台としては、住人の臆面のなさや、空虚さの比喩とも感じられる絶妙な舞台設定になっている。
まとめると
堅実な人間描写、練りに練られた脚本。美しい撮影。重層感のある演技。ジャンルものとしての楽しさと、上質な人間ドラマの両方が堪能できる傑作。
出演もしているジョエル・エドガートンは本作が長編映画初監督。短編をいくつか撮っていたり、脚本のみでいくつかさくひんがあるものの、原作なしのオリジナル脚本でここまの完成度とは驚愕することしきり。
それと
さほど必要のない前知識。
サイモンセッズ(Simon says)というゲーム。
命令する人と、される人に分かれてゲームをする。命令する人は「サイモンセッズ~~」と命令を出す。サイモンの命令は絶対。たとえば「サイモンは、右手 を上げろと言っている」といった具合に、どんどん命令を出していきいきなり、サイモンの名前を出さずに命令する「左手を上げろ」といって、サイモンが言っていないのに右手を挙げた人の負け、というゲーム。
ミスター・ボージャングル
タップダンサー、ビル・ロビンソンの愛称。または、彼をモデルにして作られた曲のタイトル。
ジェリー・ジェフ・ウォーカー作曲。サミー・デイヴィスJr.の歌唱が有名。老ダンサーに語りかけるなんとも物寂しい歌。
↓ネタバレ感想↓
結局何が起こったのかの考察。
サイモン(ジェイソン・ベイトマン)とロビン(レベッカ・ホール)の夫婦は、新しい家に引っ越してきた。
新天地は、サイモンの育った馴染みの場所。
新居用に雑貨を購入していると、見覚えのない男(ジョエル・エドガートン)が話しかけてくる。
サイモンの同級生だと言うが、なかなか思い出せない。男がゴードと名乗るとようやく思い出した。
「だいぶ雰囲気が変わった」
始まったばかりだが、細かな描写が満載。
ゴードの初登場は、自然にカメラに写りこむようにして登場する。この時点はまったく不穏な空気など感じさせない。
サイモンがゴードのことを思い出せないあたりから居心地の悪い空気が醸成されていく。
知り合いの名前が思い出せず口ごもる場面は、誰しもが経験があるはず。
そのような普遍的な状況から物語が発展していくので自然に感情移入することができる。
そしてその標的となるのは、どの映画でも普通代表といった立ち位置のジェイソン・ベイトマン。彼が、怪しげな男に翻弄させるのだと、キャスティングだけで予想させる。
それと対をなすゴード役、監督も兼任のジョエル・エドガートン。黒目がちで一見何を考えているかわからないまなざしが底知れない。
細かいところでは、夫婦が雑貨屋で買った商品を郵送しようと話している会話がある。おそらくゴードはここから住所を知ったのだろう。
サイモンたちの引っ越し作業も進んできたころ、玄関に贈り物が置かれていた。ワインボトルに赤いリボンが結ばれ、カードが添えられている。「お帰りサイモン。ゴードより」
新居の住所をどこで知ったのか不思議に想いながらも、さして気に留めなかった。
数日が何事も無く過ぎていく。
その中で夫婦の様子が徐々に明らかになっていく。ロビンは隣に住んでいる家族の赤ちゃんが気になってる様子で、どうやら彼女が流産してしまったことが引っ越しの一因だのだとわかる。
ロビンは、家に訪ねてきたゴードを夕食に招く。
サイモンとロビン、ゴード。三人で食事をする。
ゴードに調子を合わせるサイモンだったが、二度と食事には呼ぶなとロビンに釘を刺す。
表面上は穏やかな会話。昔話に花を咲かせているようだが。妙なすれ違いや、噛み合わない居心地の悪さが漂っている。
ココでの会話が、一番作品のテーマ性を物語っている。
サイモンはハイスクールの生徒会長をしていた。
そこでの選挙公約は、サイモン・セッズ。サイモンの言うことは絶対。運動の時間を増やしたり、カフェテリアのメニューを増やしたりと有言実行していった。
映画を見終わると、ただの行動力と言うよりは、支配的な立ち回りだったのかも。
かなり輝かしい学生生活だが、サイモンは、学生時代の友人とは連絡を取っていないという。
何か後ろ暗いことがあると匂わされる。
ゴードは学校を出てから職を転々としていた。
「軍隊に入り、除隊後いろいろと職に就いた。いいことも悪いこともあった。起こったことは自分に対するギフトだと思いたい」
起きた物事はポジティブに捉えたいと語る。
サイモンは、ロビンと二人で話しながら、ゴードは昔と変わらず不気味なやつだと一蹴する。
人には、変わるやつ変わらないやつがいる、と。
ロビンは、人付き合いが苦手なだけどとフォローしながらも強くは反論しなかった。
食事をした後、サイモンとロビンは、ゴードとは距離を置こうとするが、真意は伝わらず、何度となく家に訪ねてきたり、ギフトをおいていったりした。
留守中に庭に忍び込んで池にコイを放しておくという度が過ぎた物もあった。
ゴードの異質な行動を見て、サイモンはふざけながら、自宅のホワイトボードにゴードの昔のあだ名を落書きしながらロビンに見せる。Gordo the Weirdo、不気味なゴードと呼ばれていた。
ある日、昼間のサイモンが留守の間にゴードが訪ねてくる、ロビンが家の中に入れると、ゴードはホワイトボードに残っていた落書きを見てしまう。
サイモンは、変わらない人間だ。その意味が徐々にわかり始める。
ゴードのあだ名をからかいながら自分の昔のあだなも引き合いに出していた。Simple Simon。マザーグースの子守唄が元ネタだと思われる。
おバカなサイモンといった意味にも聞こえるし、昔から変わらないサイモンという含みにも聞こえてくる。
落書きを見られたことをロビンは気に病むが、サイモンはあまり気にしない。むしろ距離を置けてよかったくらいに思っていた。
しかし意外なことにゴードから食事の誘いがくる。
サイモンは、面白半分に誘いを受けることにした。
誘いを受ける前に、サイモンは、近所や会社の友人と食事をしながら、ゴードの話を笑い話とした持ち出していた。
まずこの食事会の雰囲気が、絶妙。
引っ越してきたばかりのサイモンの社交性の高さが伺えながらも、同意しかしない薄っぺらい会話。そして、サイモンが馬鹿にしているから、よく知りもせずに馬鹿にし始める。ロビンも何か言いたげな顔をしているが、言葉を濁して反論をしない。
サイモンの学生時代が感じ取れる場面だ。
サイモンとロビンは、ゴードの自宅に招待される。
ゴードの家は、入り口に大きなゲートが有り、ロータリーがあるような大きな豪邸だった。
驚いているとゴードが家の中に招き入れる。
しかし、いきなり仕事が入ったと行ってゴードは家から出ていってしまった。
サイモンとロビンは、ゴードの家の残されてしまう。
ゴードがいなくなって好き勝手に話し出すサイモン。
「ゴードが家に来るのは、君が欲しいからに違いない」
さらにはオモシロ半分に家探しを始める。ゴード一人が住んでいるのに、女物の服や、子供部屋があった。
このあたりからサイモンのクズが隠せないほどにはみ出してくる。
サイモンは、ゴードが戻ってきて、そのことを聞いてみる。
ゴードは理由を話す「家は妻の持ち物で、子供をつれて出ていってしまった。さっき出かけたのも妻と話し合うためだ」
サイモンはそれを聞いて、今日は帰ると言い出す。「まずは問題をしっかりと解決した方がいい。一人でちゃんと立ち直れ」
ゴードは引き留めようとするが、サイモンはそれを制して続ける「まずは俺のの話を遮らずに聞け」そうして、もう二度と家には来ないように言い渡した。
ゴードの抱える問題を知ってここぞとばかりに責め立てる。2度と家には来るなと言い渡すための材料として使っているだけで特に論理性はないあたりに、サイモンの都合のいい性格が現れている。
ここでの口論も、ロビンが家の外から見てるとう描写になっていて、詳細は聞こえないが、空気の悪さだけが伝わってくる嫌な場面。
サイモンはロビンと家を出ようとする。
車で道に出ようとするが、ゲートがなかなか開かない。ゴードがリモコンを持っているはずだが、操作していないのか。
サイモンはしびれを切らし、思わず車の外に出る。
すると家の中のゴードと目が合う。
ゴードは表情を変えずゆっくりとリモコンのボタンを推しゲートを開ける。
ここのジョエル・エドガートンの表情が最高に怖くてかっこいい。
それを戦慄して見ているジェイソン・ベイトマン。車のブレーキランプが赤く光って画面を染め上げているのが、今後の凶事をようちょうしている。
怖いのに画として最高にかっこいい。このあたりは撮影の手腕だろう。
その後、サイモンとロビンの周りで不可解なことが起こり始める。
家の中で気配がしたり、飼い犬が行方不明になっていたり。池のコイが死んでる。
警察を呼び、ゴードについて話をすると、訪ねた家の持ち主が違い、結婚もしていないことが分かる。
数日後、犬がふらりと戻ってくるがロビンの頭の中にはゴードに対する罪悪感のような感情が芽生え不眠症にかかっていた。
ロビンは、隠していた向精神薬を取り出し飲み始める。
流産の際に、処方されていた薬だ。引っ越しは薬を断つためでもあった。
ある日、ロビンはめまいを起こして倒れてしまう。
目を覚ますとサイモンが帰宅していた。彼は精神薬を見つけてロビンを問い詰める。
せっかく引っ越して薬はやめたんだから、ゴードのことは忘れて前向きに暮らそう。また子供を作ろう。
それを受け入れるロビン。
ロビンは床に倒れていたはずが、ベッドで目を覚ましている。ちょっとした違和感を抱かせたまま、別に話に切り替わっていく。
この違和感もちゃんと計算済みだったり、さり気なく愛飲している緑のドリンクを印象に残しておいたりと周到なのがにくい。
それからしばらくして、ロビンは妊娠していた。
サイモンの昇進の話も進んでいき、順風満帆。
ゴードのことなどまるで忘れていたとき。出産前祝いの集まりが開かれる。サイモンの家族なども駆けつけてきた。
プレゼントの中に赤いリボンのついたプレゼントがあり、ロビンはゴードのことを思い出す。
ちょうど、サイモンの姉も遊びに来ていたので、子供のころのことをきく。サイモンと同じ学校に通っていた姉は、二人の過去のことも知っていた。
ゴードが変質者に性的虐待を受けている現場に、サイモンとその友人が出くわし通報したという事件があったのだ。
しかし、サイモンは通報しただけ。感謝しても、恨むのはおかしい。
ロビンは、過去のことを話さないサイモンに疑問を抱く。そしてサイモンの旧友に会いに行くことにする。
ロビンがサイモンの書斎を調べているときに、偶然映り込む書類に、会社内のライバルの名前が入っている。昇進の邪魔にならないように手を講じるためだろう。
サイモンは今も昔も屑なままだと、名前がチラリと映るだけでわかる。日本語字幕がでるから非常にわかりやすい。
サイモンの旧友を問い詰めると真実を話した。
変質者などいなく、虐待事件など端からなかった。サイモンがオモシロ半分についた嘘だったのだ。
それによりゴードにはゲイの噂がたち、周囲からからかわれ退学し、噂を信じた父親に殺されそうになり、父親は殺人未遂で刑務所に。
どのような事態になろうともサイモンが真実を言うことはなかった。
ここで登場する旧友も同罪と言えば同罪だ。
でも演じるデヴィッド・デンマンが素晴らしい、どう見てもサイモンとは同等ではなく下っ端として扱われていた事がわかる。いわば取り巻きとしてただのイエスマンとして付き合っていただけなんだろう。
ロビンは真実を知り、サイモンを問い詰める。
ちゃんとゴードに謝らないと、ちゃんとした家族にはなれないと、サイモンに頼む。
ここからジェイソン・ベイトマンの演技が光る。
ロビンに問い詰められて、ついに本性を剥き出しにするサイモン。
自分のやったことは認めながらも、そのあと落ちぶれたのはアイツが努力しなかったからだと自己正当化のフットワークが異常に軽い。
ロビンに言われるまま、ゴードに会いに行く。
サイモンは謝るするものの、自分の意志で来たわけではないと見抜かれ、ゴードは謝罪を受け入れない。
逆上したサイモンはゴードを殴りつける。謝りに来てやったんだから、謝罪を受け入れろと怒り狂う。
謝るやつの態度じゃない。
さりげない小道具使いも絶妙。
サイモンは、ゴードが持っていた仕事道具を払い落とす。地面に紙束が散らばる。ジョックスがナードの持ってる教科書を払い落とすようにしか見えない。
サイモンは、自宅へ戻る。ロビンに、ゴードは謝罪を受け入れてくれと報告する。
ここでのロビンは、どの程度サイモンを信用していたかは不明だ。流石に全面的に肯定していたとしたらすこし考えが浅すぎる。信じたいものを信じる状態になってしまっているのかも。
ロビンは出産、無事に男の子が生まれる。
喜ぶサイモンだったが、ロビンの顔は暗い。
ロビンは、もう家には帰らないという。離婚を宣言され呆然とするサイモン。すると携帯に電話が入る。会社の同僚だ。自分が有利になるよう不正を捏造したことがバレてしまった。仕事はクビに。
社内で出回ったメールもゴードが、手を回したのだろうか。
因果応報という意味では、ゴードが何もしなくても、サイモンはクビになっていたはず。
サイモン帰宅すると玄関先には、例の赤いリボンのついた巨大なギフトが置かれていた。
カードを読むとゴードからの出産祝いのようだ。恐る恐る開けてみると、なんの変哲もないベビーバスケット。さらにバスケットの中には、1、2、3と数字の書かれた小さな包みが入っていた。
1の包みには、サイモンの家の裏口の鍵が入っていた。
自由に出入りが出来たと言いたいらしい。
そして2にはCD。聞いてみると、家に招かれゴードが席を外した時の会話が録音されていた。
「ゴードが家に来るのは、君が欲しいからに違いない」
サイモンが驚きながら聞いていると音声はいきなり『地獄の黙示録』のBGM、ワルキューレの騎行へと変わり大音量で流れ出す。サイモンはあわてて再生を止める。
3つ目の包みを開けるとDVDが入っていた。
再生してみると、サイモンとロビンが家で過ごす様子が盗撮されていた。場面は変わっていき、ロビンがめまいを起こし気を失う場面が映る。カメラはどんどん近づいていき、部屋の中へ入っていく。撮影しているのは、サルのマスクをかぶったゴードだ。不気味な手つきで、ロビンをベッドに寝かせる。そして服を脱がせようと手をかける。サイモンは映像を見て怒りと悲しみに打ち震えていると、いきなり映像が途切れてしまう。
サイモンは、家を飛び出し車で病院へ急ぐ。
病院内でゴードの姿を見つけるがすぐに見失う。するとゴードから携帯電話に電話がかかってきた。
サイモンが怒りにまかせて怒鳴ると、ゴードは聞き覚えのあるフレーズで話し出す「ますは、遮らずに話を聞くんだ。あの時とは逆の立場だ。何もなかったって言ってほしいんだろう。お願いしますと頼んでみろ」崩れ落ちるサイモン。
離れた場所でそれを見ながら話を続けるゴード「何もなかったといってやってもいい。でもお前は信じようとはしない。でも簡単だ。子供の目を見れば本当のことがわかるはずだ」
サイモンは呆然としながらも、新生児室へと向かう。そこではロビンが生まれたばかりのわが子を抱いていた。ガラス越しにサイモンは目を合わせる。
しかし、自分の子供だという確信が持てず涙を流すばかりだった。
ゴードは廊下の奥から、うずくまるサイモンを見る。ゴードは、腕に巻いていたギプスを外すとそのまま去っていった。
何も言いきらず、サイモンにギフトを残して去っていくゴード。その曖昧さを表すかのように、淡いガラスの向こうで立ち去るゴードにカメラのピントが合うことはない。
切れ味のいいラストだけど、ここですでに離婚が明示されているのは気になる。できれば、妻とゴードの会話で離婚が匂わされて、サイモンが知らないほうがもっと陰湿な雰囲気になっていたと思う。息子の父親がどちらにせよ、サイモンは妻子を失っている状態だから、すこし勘所を外しているようにも思った。なんの問題もない幸せの絶頂から叩きほとすほうが衝撃は上だったはず。
もしかすると、ロビンがあまりに主体性のない女性になってしまうことを回避したのだろうか。
最後は何も起きていないという考察。
本作のラストについて考えたとき、刑事コロンボの『死者の身代金』の回を思い出した。
犯人は殺人で大金を手に入れる。しかし殺した相手の娘から犯人と疑われ、警察にも目を着けられる。娘を黙らせるため、金の一部を分け与える。しかし、娘とコロンボは結託していて、金についている犯人の指紋が決定打となる。
コロンボが逮捕する際のセリフ「自分のように、人も金で動くと思ったのが間違いだ」
悪人か如何を問わず。大抵の人は、他人のことをある程度自分と同じだと思っているはずだ。
自分自信を軸に、人間とはこういうものだと考える。
特にサイモンは、自分の尺度しか物事を考えられない。特にゴードの仕打ちに対しては、「もし自分に同じ災難が降り掛かったら努力で好転させていた」と本気で思っている。
そんな悪意を持って行動をできるサイモンを貶めるには実際に行動する必要はないと思う。
ゴードのセリフでは、実際に何があったのか、何をしたのか明言されない。
しかし、そのほかの場面を集約すると、何もなかったと思えてくる。
3人での夕食の場面。ゴードは「いろいろと良いことも悪いこともあったが、結果として自分をよくしてくれるギフトだと思いたい」と言っていた。
引用される聖書の一説「詩篇、第7章15節、彼は穴を掘って、それを深くし、おのれの作った穴に落ち込む」単純に自業自得の話ともとれるが、自分の掘った穴とは、自分が作り上げた人間観倫理観ともとることができる。
ゴードは、ロビンに対して「いい人にはいいことが起きないと」と言っている。
サイモンは悪意を持って行動することに躊躇いのない人間だ。自分のためなら人を傷つけ貶める。だからほかの人もそのように行動できると思っているに違いない。
ゴードが妻に手を出したと思うのは、自分だったらそうすると考えているからだ。
だから最後に、息子の無垢な目を見ても確信が持てずに慟哭する。 サイモンは人間だ。他人もそうだと思っているに違いない。
そんなサイモンには実際の悪意を向けることなく、悪意の可能性をちらつかせるだけでいい。あとは自分の掘った穴に落ちていくしかない。
最後にギプスをとるのもすべてが嘘だったという宣言だと見える。
でも実際には、不法侵入、犬誘拐、鯉の惨殺とかいろいろとやっているけどね。
検索用